Interview 2

左から、オリエンタルコンサルタンツグローバル(OCG)のゴーシュ・ポロセンジト・クマールさん、高橋水希さん、鈴木雅人さん
Photo by 川しまゆうこ

「ゾウが通れる橋をつくりたい」チームで相反する意見が出たらどうする?
インクルージョン&ダイバーシティ(I&D:包摂と多様性)の生かし方を聞いた。

コンサルに聞く、シニアや外国籍社員の活躍例。
I&Dがプロジェクト成功に欠かせない理由

若手からシニア、外国籍などの人々が共に働く時代。「多様な人材登用がプロジェクトの成功に欠かせない」と語るのは、総合コンサルティング企業のオリエンタルコンサルタンツグローバル(OCG)だ。

政府開発援助(ODA)を中心に、世界150カ国、3000以上のプロジェクトを担ってきたOCGが実践するインクルージョン&ダイバーシティ(I&D:包摂と多様性)とは? 若手、シニア、外国籍の社員3人に聞いた。

Q. まずは、皆さんのお仕事について教えてください。

鈴木さん(以下、敬称略):

私は現在68歳で、定年後もシニア社員として働いています。専門は港湾関係の調査・計画・設計・施工監理です。フィリピンなど主に海外の仕事を40年以上経験し、現在はアフリカ・ケニアの案件を担当しています。
港湾の仕事には、例えば物流の主流であるコンテナターミナルの設計や施工監理があります。コンテナ船用の岸壁、ヤードやビルをつくるだけでなく、「港湾のオペレーションや物流が回るようにする」ことが最終ゴールです。

鈴木雅人さん:OCG港湾部参事。専門は港湾・海洋土木。1979年 OCGの前身であるパシフィックコンサルタンツインターナショナルに入社、2008年OCGに転籍。パナマ、フィリピン、トンガ、ケニアなど海外プロジェクトを40年以上経験
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高橋さん(以下、敬称略):

私は2013年に新卒入社し、専門分野は環境社会配慮です。インフラ事業で、環境アセスメントや住民移転計画の作成を担当しています。これまで国内のグループ会社に2年ほど国内出向した後、ミャンマーなど約10カ国の案件を経験しました。直近ではバングラデシュの道路改良事業で、ゴーシュさんと一緒に働いています。

高橋水希さん:OCG道路計画部課長。2013年、OCGに新卒入社。専門は環境社会配慮。ミャンマー、バングラデシュなど、主に道路・橋梁案件の環境アセスメント、住民移転計画の策定等を経験
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ゴーシュさん(以下、敬称略):

私は2011年に入社し、専門は構造工学です。最初にベトナムで企画提案の仕事をした後、自分の母国であるバングラデシュで、JICAの案件の調査や設計を経験しました。2024年からは東京に戻り、道路交通事業部に所属しています。

Ghosh Prosenjit Kumar(ゴーシュ・ポロセンジト・クマール)さん:OCG道路技術部課長。2011年にOCGに入社。専門は構造工学。ベトナム、バングラデシュなど、主に橋梁建設プロジェクト、空港プロジェクトなどで、技術者、施工監理などに従事。通算24年間の経験を有する
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Topic 1

国際プロジェクトにおけるI&Dの大きなメリット

Q: 高橋さん、ゴーシュさんは同じチームで働いているのですね。プロジェクトの工程やチーム編成について教えていただけますか?

高橋:

道路交通事業部のプロジェクトを大きく分けると、基本的な要素を決める「フィージビリティー調査/概略設計」、具体的な図面などを引いていく「詳細設計」、工事の現場を監理する「施工監理」という3段階があります。

ゴーシュさんと担当しているバングラデシュの道路事業は最初の段階で、チームメンバーは16人。橋梁、道路、環境社会配慮など、それぞれ異なる専門を持つ人たちです。言語は、日本語や英語、ベンガル語など、メンバーや状況によって都度使い分けています。

ウガンダ国での橋梁架け替え事業において住民会議をリードする高橋さん
高橋さん提供

Q: プロジェクトにおいて、I&Dのメリットや重要性をどのように感じていますか?

高橋:

ゴーシュさんのように現地の慣習や文化を知っている人が1人いるだけで信頼を得やすく、情報収集やコミュニケーションを円滑にできる、という大きな強みがあります。例えば、現地政府から問い合わせがあったときも、ゴーシュさんがワンストップで対応してくれます。他の案件でも、多様な人がいることは大きなメリットになっています。

ゴーシュ:

世界中、皆が同じスタイルで仕事をするわけではありませんよね。まずは現地の人がどんな気持ちや状況で働いているのかを知ると、どこの地域でもアウトプットしやすくなります。そして、いろいろな人たちと一緒に働き、多様なアイデアを取り入れることでプロジェクトがうまく進行していきます。

施主や工事会社とともにバングラデシュの現場を訪問するゴーシュさん(左から3番目)
ゴーシュさん提供

鈴木:

プロジェクトが施工段階になると、施工業者や現地の多くの人々と連携しながら工事を進めなければなりません。例えば、施工業者から「設計図面よりも地盤が柔らかいので追加の工事が必要です」と言われたとします。

追加工事にはコストがかかり、それは施主の負担になるため、慎重な評価が求められます。時には「それはコンサルタントの設計ミスではないか」と言われることもあり、契約や技術の対話が欠かせず、より粘り強いコミュニケーションが重要となります。

そこで単なるメールや文書の応酬になっては、うまくいきません。自ら心を開いて、顔を合わせて会話することは、特にプロジェクトマネジメントにおいて重要です。今振り返ると、現地の人たちも巻き込み、I&Dを大切にする仕事をしてきたのだと感じます。

鈴木さんが担当した、モザンビークの港の工事現場。施工業者や現地のエンジニアらとのコミュニケーションが欠かせない
鈴木さん提供

Topic 2

「ゾウと共存できる道路をつくりたい」異なる意見を受け入れる土壌

Q: 社内では、以前からI&Dが浸透していたのですか? チームメンバーの専門分野やバックグラウンドが違うからこそ、難しいことはありますか?

鈴木:

昔はシニア男性社員だけのチームもたくさんあったんです。そういうチームでは、各人が意地を張り合い、調整がうまくいかないこともありました。今では考えられませんが、極端な例としては「この人と一緒の飛行機には乗らない」といった大人気ない喧嘩も見られました…。現在は、年齢や性別、個性等にこだわらず、バランスの取れたチーム編成を心がけています。

現在はバランスの取れたチーム編成によって、プロジェクトを成功に導いている
Photo by 川しまゆうこ

高橋:

そうなんですね。今は普段から多様な人と話す土壌が醸成されているからこそ、異なる意見が受け入れられていると感じます。そもそも、私の環境社会配慮という分野は、どうしてもエンジニアと利益が相反する部分があります。

例えば、周辺にゾウなどの野生生物が生息している地域での道路計画の場合、私は環境配慮担当のため、「ゾウが安全に移動できるように、高架構造の道路(橋梁形式)にしましょう」と提案しますが、全体のプランを担うエンジニアからすると、「お金がかかりすぎです」となってしまうんです。

プロジェクトでは、ゾウなどの野生生物などへの配慮も求められる一方、コスト管理も重要な課題となる
高橋さん提供

住民移転もとても難しい問題です。単純に道路を拡幅すれば道路工事にかかる費用は抑えられますが、周辺住民への影響も大きいですし、反対運動が起きるリスクもあります。そのような問題がいくつもある中で、異なる意見に普段から慣れている人たちは、喧嘩ではなく、議論として受けとめる素地があります。

ゴーシュ:いろいろな分野の意見をリスペクトし、最適化しないといけないんです。全ての意見は取り入れられないですが、最終的にどれが大切かは、みんなの意見を聞いて、議論しないとわかりませんよね。

Topic 3

多様な人材採用と働きやすい環境づくり

Q: そういった多様な人材をどのように集め、働きやすさを維持していますか? また、今後はどんな人と働きたいですか?

高橋:

弊社は、業界内でも人材の採用には積極的で、直近では約20人を新卒採用しました。通年でキャリア採用もしています。専攻分野が異なっていても興味があれば、技術職のみならず、営業や事務職の採用もあります。

私はもともと国際関係の分野を勉強していました。水質や動植物などの環境問題は理系分野なので最初はあまりわからなかったのですが、入社後のOJTや国内出向で学んできました。

子育て世代の社員の情報交換の場として、OCGは定期的に座談会を開催している
OC Global提供

OCGには、休職して国内外で修士や博士号をとる人や外部機関で就業し、復職後にその経験を活かして仕事をしている人もいます。男性の育児休業取得率は約80%ですし、多様な人がワークライフバランスを保てる制度づくりをしています。

鈴木:

私はできるだけ若手にも出張機会を与え、「せっかくの機会だからゆっくり観光でもしておいで」と声をかけます。異国の土地の食べ物や文化、現地の人との交流は、海外業務ならではの楽しさですから、そんな雰囲気づくりもしています。楽しさを実感してもらえれば、また仕事にも役立ちますから。

それから、プロジェクトマネージャーにはプロジェクト予算・人事管理など、大きな裁量が与えられていることもOCGの特徴です。責任も大きいですが、プロジェクトを柔軟に伸び伸びと進めやすいです。

「海外でも自分たちの技術を活用してもらえたら嬉しい」と思える人と働きたい

Photo by 川しまゆうこ

ゴーシュ:

日本にはいろいろな技術がありますが、「海外でも自分たちの技術を活用してもらえたら嬉しい」と思える方と一緒に働きたいです。そういう思いがある方ならば、「もっといろいろな国のことも勉強しよう」と興味が広がって、一緒に成長できますよね。

高橋:

組織としては、従来のODAだけではなく、新しい事業投資や民間案件など、新規分野の開拓も目指しています。違いを尊重し、学ぶ姿勢を持つ方に来ていただきたいですね。専門分野だけでなく、言語や文化についても学ぶことが、プロジェクトの成功や働きやすい環境づくりに寄与すると思います。

ODAをはじめ、国際的なプロジェクトを数多く手がけるコンサルティング企業「オリエンタルコンサルタンツグローバル」。I&Dを社内外で重視し、違いを尊重し合うことが、プロジェクトの成功に欠かせないと教えてくれた。「オリエンタルコンサルタンツグローバル」I&Dの詳細はこちら

(撮影:川しまゆうこ)